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『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』感想

戦時中に孤立しながらも徹底抗戦を訴えた嫌われ者の英国首相の話で、その主張は間違ってはいなかったのだと後の歴史で証明されているから、今の視点で見ると「英雄」の話にもなり得る。それは結果論でしかないと切り捨ててしまいそうになるけど、歴史はそもそも結果論の積み重ねだと思うし、何より楽しめるものも楽しめなくなってしまうので私は娯楽作品として「ウィンストン・チャーチルの物語」を鑑賞した。得られたことも多かったな。特に最後の演説は、国民の声に耳を傾けることと自分の言葉できちんと告げることの重要さを改めて痛感した。国のトップなら尚更で、そうじゃないと何も始まらない。

チャーチルを安易に英雄視するような作りになってないところも好印象で、政敵であるチェンバレンハリファックスの意見もしっかり描いてるし、むしろ私も二人が主導する宥和政策の方に肩入れしたくなったほど。チャーチルを異常視する周囲の様子も描かれていたけど、それもまあ仕方がないよなと思ってしまった。それでもチャーチルの覚悟に圧倒されることが多かったのは、ゲイリー・オールドマンの力によるところが大きいんだろうな(特殊メイクもすごいけども)。印象的だったのが「頭を食われながら虎に道理を説くことはできん!」と吠えるシーンと、ダンケルクの30万人の部隊を助けるためにカレーの4千人の部隊を犠牲にすることを即断するシーン。特にカレー陥落は見ているこちらも辛かった。一方で微笑ましいシーンもあって、"クソ喰らえ" なVサインは写真のインパクトもあって美味しいエピソードだった。レイトンに意味を教えられて二人で笑うところも好き。

そのレイトンもただのヒロインではなく、きちんと役割があるのが良かった。ジョージ6世にも言っていたけど、孤立しているチャーチルには自分の考えを伝える相手が敵を除くと殆どいない。だからチャーチルの考えをタイプしてくれるレイトンの存在が、視聴者である私にもありがたかった。私が最後のチャーチル演説に感じ入ってしまったのも、これまでのチャーチルの動揺や苦しみが彼女によるタイプを経て伝えられていたからなんだろうな。ただ、地下鉄のシーンはクライマックスに向けて盛り上げようとしているのは分かるんだけど、都合良く作りすぎている感があって急に冷めた。ジョージ6世とのシーンももうちょい欲しかったな。演じていたベン・メンデルソーンが良かっただけに出番が少ないのが惜しい。

映像もすごく良かった。タイトルインの議会のシーンから一気に引き込まれたし、国王に謁見する時のカメラワークや光の演出も好み。他にも電報を読んで空を仰ぐニコルソン准将とか、カレー陥落後に一人で酒を煽るチャーチルとか、夜空を飛ぶ戦闘機を傘の下から見上げるチャーチルとか、ハリファックスの辞任か和平交渉かを迫られた後の閉まって扉の小さな窓に映るチャーチルとか、ラストの無数に舞う白いハンカチの下を歩くチャーチルとか、とにかく目を奪われるシーンが多かった。

しかしこの結末から更に五年もかかってやっとドイツに勝てたというのが、なかなかにしんどいな……。五年は重すぎる。