戦時中のフランス領モロッコの都市カサブランカを舞台にしたロマンスムービーであると同時に、国歌対決のシーンあたりは顕著だけど反枢軸のプロパガンダムービーでもあり、そこは無知な私でも分かるほどに露骨だった。
見る前は有名な「君の瞳に乾杯」という台詞の存在しか知らなかったけど、まさかそれが作中で四回も飛び出すとは思わなかったな。でも気障な台詞が嫌味なく飛び交う空気は結構好き。ちなみに一番印象的な台詞はリックとイボンヌの会話かもしれない。
「昨日はどこに?」
「そんな昔のことは覚えてない」
「今夜会える?」
「そんな先のことはわからない」
今気づいたけど、図らずもラストのリックそのものを暗示してたんだなこの台詞。
イルザのほうは、過去を引きずるリックを再会後に再び振り回すあたりがまさに無自覚なファム・ファタルだと思うけど、事情も理解出来るので悪女感はあまりない。イルザのラズロへの気持ちは同志に対する尊敬であり、昔のイルザは幼かったが故にそれを愛情だと思い込んだ。しかし夫ラズロが殺されたと知らされてからリックに会い、ここで初めて恋を自覚する。ラズロが生きていることを知らないイルザに、リックと心を通わせるのは不倫だと責めるのもちょっと違うかなと。ラズロの生存を知った時も、ラズロがこの時代に必要な人だと理解していたから彼女は病気の夫を放っておけなかった。これはラズロが如何に革命家として有能なのかが後に描写されるし、リックですら強い信念を持つラズロを放っておけなくなるので説得力がある。最後もイルザはラズロだけアメリカに行かせて、自分はリックとカサブランカに残ろうとしていた。リックを愛し、ラズロも救いたいイルザにはそれしか選択肢がない。でも革命家の妻であるイルザはカサブランカに残っても危ないから、結局リックがラズロと共に行かせてしまうのだけども。最終的にはリックもイルザも恋を諦めることになるのが切ないけど、この着地がベターなんだろうなと納得もした。
でも一番面白かったキャラクターはルノー署長で、最後に愛国心を秘めていることが判明するけど職権濫用もして美味い汁を吸うクズなところが好き。シュトラッサーへの対応も誤れば危ないだろうし、結構な綱渡りをしてるんだろうなあのおっさん。こういう食わせ者は大好きなので、リックとルノーの会話はイルザとのやり取り以上に楽しく見れた。
ところでこれくらい古い映画はそんなに見てない上で書いてしまうけど、古い映画の男主人公格っておじ様が多いよーな? ヒロインはもれなく若く美しい人ばかりだけども。イルザを演じたイングリット・バーグマンも美貌は当然として、頬を伝う涙や潤んだ瞳もたいへん美しく、ファム・ファタルとしての説得力は十分すぎるほどに有していたなと思います。