ロログ

ネタバレ映画感想とかいろいろ

『アメリカン・ビューティー』感想

レスターの「"僕らは普通の人間" というインチキCMなのさ」という台詞そのままのいわゆる "理想的な家族像" を皮肉った映画で、赤い扉、赤い車、赤い血、夢想の世界で舞う赤い薔薇と赤がことごとく印象的な作品でした。

レスターは娘の友達に一目惚れして妄想しながらオナニーするような男なんだけど、直接手を出さないのならともかく困ったことにこのおっさんは本気で、更にそれを隠す気がなくジェーンやアンジェラにも気付かれているのが強烈。そんな気持ち悪い父親をケヴィン・スペイシーが絶妙に演じていた。そしてレスターだけでなく登場人物のほとんどがまともじゃないように見えるんだけど、最後まで見てみたら本当にまともじゃない人なんてどこにもいなかった。まともなのにまともじゃないように見せたり見えたりしてしまう世界が、なんだか哀しい。

印象的だったのがアンジェラが処女だと知ってレスターの暴走があっさり止まるところで、その後の憑き物が落ちたような穏やかなレスターも素直になったアンジェラも、どちらも「普通の人」なんだけど一気に魅力的な人物に見えてくるのが面白いんですよね。

もう一人強烈だったのが隣家のフランク大佐で、終盤になって彼がゲイだと明かされた時は驚いた。でもちゃんと納得出来るようになっていて、それまでの細かい描写が上手かったのだろうな。国粋主義者であることを自分に強いているからゲイを否定しなければならず、しかしそれは己の否定にも繋がる。だから苦しむし、妻や息子に当たることで発散させていた。しかしそうしたひずみはとうとう隣人にまで及んでしまう。それでもレスターは幸せなまま感謝の気持ちで満たされて死んだし、そのことにリッキーだけが気づいて微笑んだ。レスターにとっては優しい結末だったのだと思う。残された家族は辛いだろうけども(本気で殺すつもりはなくても、妻も娘も殺意を仄めかしているから余計に)。

しかしレスターとリッキーが肉体関係にあるとフランクが勘違いするシーンはコントのようで笑った。あれは勘違いするのも無理はないというか、色々タイミングが絶妙すぎたもんな。というかカーテン閉めろよみんな!