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『ダンサー・イン・ザ・ダーク』感想

胸糞が悪くなる映画として知られるタイトルだけど、タイミングが合わずなかなか見れないでいたのをようやく見た。確かに暗い話ではあったし主人公も好きじゃないけど、鑑賞後の後味は悪いものじゃなかった。私は好きだなこの映画。何よりも主役を演じたビョークが良すぎる。歌声が好みだったし曲もいい。演技も自然で、セルマ役は彼女以外は考えられないほど。グラグラ揺れる不安定なカメラ演出は大嫌いだし、それを二時間半近く見せられるのに途中離脱することもなく一気に見終えたので、私はセルマの物語にそれだけ没入していたのだなと。

私がセルマを好きになれないのは、ジーンに対して分かりやすく母親としての愛情を伝える場面がほとんどなかったのに、それでも息子のためだけに動いているつもりでいるからかもしれない。この映画は終始、母の無償の愛ではなくセルマという人間のエゴイズムが発揮されるので、ざわざわとした不快感を抱いてしまう。それとセルマは自分の状況を回避できる選択肢で、毎回敢えて回避してこなかった人なんですよね。本人もそれを自覚しているからか、頼っていい人や頼るべきタイミングでは頼ろうとしない。しかしそれで周囲に迷惑がかかってるのがな……。だから冤罪で処刑された彼女に同情する気にはなれなかった。

でもジーンの手術は成功したし(キャシーがセルマのために嘘をついた可能性もあるけど、少なくともセルマはあの瞬間に信じたのでそれがすべてだと思う)、処刑の直前まで気持ちよさそうに歌ってたので、そこまで絶望的な結末じゃなかったと思う。だから思った以上に、心穏やかにエンドロールを眺めていられた。キャシーとジェフ、ジーンは気の毒だと思うけども。

しかしセルマは好きになれなくても、やっぱりビョークの歌は素晴らしかった。工場での作業音がセルマを空想に導いていく最初のミュージカルパートも良かったけど、セルマとジェフが線路の上で歌うシーンが一番好き。映像もダンスも歌も良かった。マシになってきたとはいえ今でもミュージカルが苦手な私にしては珍しく、素直にミュージカル映画としても楽しめた気がします。この映画のミュージカルパートは、セルマの現実逃避の手段として描かれているからかもしれんね。