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『それでも夜は明ける』感想

好きな作品というわけではないけど、いい作品だったとは思う。主人公のソロモンは自由黒人という特権階級に属し、黒人への迫害を知らずに育ってきた稀有な人間だから、最初はまだ希望を失ってないし周りの絶望している黒人たちに戸惑うし、自分を奴隷として買った主人にもズバズバものを言ったりする。それが奴隷としての生き方を学ばされ、徐々に屈しかけていく。保身のための見て見ぬ振りが白人だけでなく黒人の間でも横行し、やがてソロモンもそうならざるを得なくなる。そんな主役を演じたキウェテル・イジョフォーの言葉のない顔面のアップが印象に残ってます。

何気に豪華なキャスト陣だったけど、圧巻だったのは残虐な農園主エップスを演じたマイケル・ファスベンダーで、特にパッツィへの屈折した愛が強烈。終盤、パッツィに鞭を打とうとして出来ず、プラットに押し付けるシーンは見入ってしまった。差別対象の女に惹かれながらもそれを認めることが出来ず余計に暴力的になる身勝手な男、というと『シンドラーのリスト』のアーモンを思い出す。ベネカンの演じたフォードも「いい人に見えるけど社会のシステムに抗えない白人」ぶりが絶妙で良かった。

終盤は現代からトリップしてきたような価値観を持つバスが登場して、あっさり解決したように見える。奴隷制度に疑問を持つ白人がいることは序盤にフォードを出すことで描いてはいたけど、それでもバスはちょっと綺麗すぎるよーな。ブラピが演じているから、より不自然に感じるのかもしれんねこれは。まあ実話を元にしてるそうなので、実際にあんな人もいたのかもしれないけども。

「プラット」が理不尽から解放されて「ソロモン」に戻っても、パッツィのように残された黒人のことを思うと苦い気持ちになる。ここは序盤、船でプラットを置いて先に主人の元に戻っていった別の黒人男性のシーンとの対比になっているのが良かった。